Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., Ser. A, 34(2), pp. 63–75, June 23, 2008 皇居におけるタヌキの食性とその季節変動 酒 向 貴 子1・川田伸一郎2*・手 塚 牧 人3・上 杉 哲 郎1・明 仁4 1宮内庁管理部 〒100–8111 東京都千代田区千代田1–1 2国立科学博物館動物研究部 〒169–0073 東京都新宿区百人町3–23–1 E-mail: [email protected] 3フィールドワークオフィス 〒196–0025 東京都昭島市朝日町4–29–2 4〒100–0001 東京都千代田区千代田1–1 御所 Seasonal Food Habits of the Raccoon Dog, Nyctereutes procyonoides, in the Imperial Palace, Tokyo Takako Sako1, Shin-ichiro Kawada2*, Makito Teduka3, Tetsuro Uesugi1and Akihito4 1Maintenance and Works Department, Imperial Household Agency, 1–1, Chiyoda, Chiyoda-ku, Tokyo, 100–8111 Japan 2Department of Zoology, National Museum of Nature and Science, 3–23–1, Hyakunin-cho, Shinjuku-ku, Tokyo, 169–0073 Japan E-mail: [email protected] 3Field Work Office, 4–29–2, Asahi-cho, Akishima-shi, Tokyo, 196–0025 Japan 4The Imperial Residence, 1–1, Chiyoda, Chiyoda-ku, Tokyo, 100–0001 Japan Abstract The distribution of latrines of the raccoon dog, Nyctereutes procyonoides, was exam- ined from July 2006 to December 2007 in the Imperial Palace grounds, Tokyo, Japan. The raccoon dog is accustomed to defecate at fixed locations, forming holding latrines; thus the distribution of latrines is a good indicator of their abundance. The results suggest that the latrines are widely scat- tered in the study site, but are more dense in the Fukiage area, where an old-growth broad-leaved forest is established. The latrine sites are used more frequently from September to December, as the number of fresh feces increased in the autumnal season. To examine the seasonal food changes of the raccoon dogs, 10 pieces of feces from some la- trines were collected every month and analyzed the indigestible contents in the sampled feces. The food items identified consisted of animal, plant and man-made materials, suggesting that the rac- coon dogs were highly omnivorous. The animal materials found from the feces included mammals (4% of total feces), birds (37%), reptiles (2%), amphibians (3%), insects (95%), chilopods (56%), isopods (2%) and gastropods (12%). Invertebrates were the most abundand food item throughout the year. Three coleopteran families, the Carabidae, Staphylinidae and Scarabaeidae, accounted for a large proportion of the insects and they showed seasonal fluctuations. These suggest that the rac- coon dogs fed on them as major animal food resources in the study site, and perhaps the seasonal- ity is related to the temporal changes of availability of the insects. The majority of plant materials found in the feces was a variety of seeds, suggesting that the rac- coon dogs fed on berries and fleshy fruits throughout the year. The occurrence of seeds decreased from March to April, which coincided with a low availability of fruits. The seeds found in feces were categorized into three types: (1) the short-term berry type including Prunus(Cerasus) spp., Morusspp., Rubus hirsutusand Machilus thunbergii, which occurred only a short term after their fruiting periods; (2) the long-term berry type, including Celtis sinensis, Aphananthe aspera and * Corresponding author 64 酒向貴子・川田伸一郎・手塚牧人・上杉哲郎・明仁 Swida controversa, which occurred continuously for three or more months after the fruiting peri- ods; (3) the acorn type, including Castanopsis spp., Quercus spp. and Ginkgo biloba, which oc- curred in early spring (January to April) when the other fruits are scarce. The seasonal change of the three fruit types implies that the raccoon dogs consume the available fruits in relation to the successive fruiting periods. The proportion of artificial materials found in the feces was considerably lower than in previous studies carried out in the suburbs of Tokyo, suggesting that the raccoon dogs in the study site strongly depend on natural foods. Most of the natural food items were native to Japan since the past Edo period. Thus we conclude that the preservation of biodiversity in the Imperial Palace grounds was essential for the re-colonization by the raccoon dogs of the Tokyo metropolitan area after the 1970s. Key words: fecal analysis, food habits, raccoon dog, the Imperial Palace. 都市化の進行に伴い都心から一時期消滅したと は じ め に されているタヌキが,皇居で頻繁に目撃されてい タヌキNyctereutes procyonoidesは,極東ロシア, ることは興味深い.タヌキは特定の場所で排便す 中国,朝鮮半島,インドシナ半島に分布するイヌ る習性があり,そのような場所にはいわゆる「溜 科の動物である.ロシア西部やヨーロッパでは め糞」が残される.タヌキの生息を明らかにする 移入種としてその生息が確認されている(Sheldon, には,溜め糞の調査が有効である.そこで筆者ら 1992).日本では沖縄県を除く都道府県に分布し は,皇居におけるタヌキの生息状況を把握し,糞 (Ikeda, 1991),古くからなじみのある動物として の分析から食性とその季節変動を推測することを 知られている. 目的として2006年4月から2007年12月にかけて 東京都においては,1950年代初頭までは都心部 この調査を実施した. でも捕獲例があった.その後都市化の進行に伴い 都心部での記録が絶え,1970年代には東京都の西 材料および方法 部にまで分布が後退したとされている(小原, 1982).しかし,1980年代から神奈川県と東京都 1. 調査地区の設定とその概要 のいくつかの都市周辺での生息情報が現れ(池田, 皇居は東京都千代田区のほぼ中央に位置し,常 1991),また,神奈川県川崎市内での分布域は拡 緑広葉樹と落葉広葉樹を主とした総面積115haの 大傾向にある(木下・山本,1993)との報告があ 緑地空間である.周囲を囲む濠の土塁には,植栽 る.東京都心部では,赤坂御用地内で1990年代 されたクロマツPinus thunbergiiやクスノキCin- 前半からタヌキが目撃されるようになった(手 namomum camphoraなどとともに多様な樹木が生 塚・遠藤,2005)ほか,新宿御苑(環境省職員, 育している. 私信)や,新宿区,豊島区,文京区など23区各 今回の調査では,過去に実施された皇居の毎木 地(中野,2007)での目撃情報がある.皇居では 調査(井出,1980)の区分に従い,調査区域を吹 1970年頃,1983年頃および1987年頃にタヌキが 上御苑地区,吹上御苑外地区,宮殿地区および東 目撃された(皇宮警察職員,私信)あと,1990年 地区の4つに区分けし,各々をA, B, C, D地区と 代半ばから目撃情報(皇宮警察職員,私信)が増 称した(図1). え,1996年から2000年に行われた国立科学博物 1) A地区(吹上御苑地区,25ha) 館による生物相調査により,その定住の可能性が 江戸時代に造成された日本庭園を基礎として, 示唆された(Endo et al., 2000).皇居に至る半蔵 1884年からの皇居の造営により整備された.第二 門の渡り堤で1994年頃にタヌキを見たという情報 次大戦後は極力人為を加えない管理をしており, (皇宮警察職員,私信)や,2007年に皇居外苑で かつて植栽されたクロマツ,イチョウGinkgo 「溜め糞」が目撃されている(環境省職員,私信) biloba,ヤマザクラPrunus jamasakuraなどの庭園 ことから,皇居のタヌキはその周辺地域と往き来 樹や,その後自生したムクノキAphananthe aspera, している可能性もある. エノキCeltis sinensisなどが巨樹となった常緑広葉 皇居のタヌキの食性 65 交林となっている. 4) D地区(東地区,35ha) かつての江戸城の主要部分であり,その一部21 haが皇居付属庭園「東御苑」として整備され, 1968年より一般公開されている.東御苑には日本 庭園,芝生広場や,1983年から3年かけて造成さ れた雑木林などがある.それ以外の場所は皇宮警 察本部など比較的建築物の多い地区である. 2. 溜め糞の探索とその利用状況の把握 溜め糞場の分布を把握するための基礎的な調査 として,2006年4月にA地区から踏査を開始し, C地区,D地区, B地区へと順次その範囲を広げ てその発見に努めた.この調査を2007年12月ま で継続的に実施し,その間に新たに作られた溜め 糞場も順次調査対象に付け加えた.溜め糞場は常 に利用されているわけではないので,その利用状 況を知るために,2006年7月から2007年12月にか けて,月当たり4回から9回の踏査を行い,排泄 後1日を経過していないと判断された糞(以降, 「新しい糞」という)の数を記録した. 3. 糞の採取とその分析 食性の季節変動を知るために,2006年4月から 2007年12月にかけて,新しい糞からほぼ1回の排 泄分と思われる量を,原則として毎月10個程度採 取し,内容物の分析を行った.採取した糞は手 塚・遠藤(2005)に従い,前処理をした後,未消 化物を動物質,植物質,人工物の3つに大別した. さらに,動物質は綱レベルに,植物質は種子とそ の他(葉,木片等)に分類したあと,可能な限り 図1.皇居(a)および調査地区(b)の概略. 図bにはため糞場確認位置を黒丸で表した. 種レベルまでの同定を試みた. A地区内のA1は定点調査地点を示す. 食性の季節変動を考察するための指数として, 糞から検出した内容物の種類別の出現率を次の計 樹と落葉広葉樹の混交林地が大半を占めている. 算式により求めた. 当地区に多いスダジイCastanopsis sieboldiiとタブ 出現率(%)(cid:1) ノキMachilus thunbergiiは関東地方の海岸沿いに 当該内容物が含まれていた糞数 も分布する樹木であるが,植栽された可能性が高 (cid:2)100 調査糞数 い(近田,2007). 2) B地区(吹上御苑外地区,25ha) 4. 定点調査 賢所や生物学研究所などの建築物と桑園や水田 A地区にある溜め糞場のうち年間を通じてよく などの開放的な空間があり,道路沿いには植栽さ 利用されていると思われる溜め糞場を定点調査地 れたイチョウの巨木がみられる.道灌濠周辺には 点A1とした.この定点では,2007年1月から12 湿性植物群落がある. 月にかけて毎週調査を行い,新しい糞があればそ 3) C地区(宮殿地区,30ha) のうち1個を採取して,それに含まれている種子 宮内庁庁舎や宮殿など建築物の多い地区である の種類とその数を記録した.分析に当たっては, が,江戸時代は鬱蒼とした森だったといわれる紅 種子の数が1から10個の場合は実数を,11個以上 葉山一帯は,現在も常緑広葉樹と落葉広葉樹の混 の場合は(cid:3)10として記録した(付表1). 66 酒向貴子・川田伸一郎・手塚牧人・上杉哲郎・明仁 (94%)とその他38例(22%)を確認した.これ 結 果 ら検出物の詳細は表2のとおりである. 1. 溜め糞場の分布とその利用状況 1) 動物質の出現状況 全調査期間中に合計30箇所の溜め糞場を確認 動物質の出現率は全調査期間を通じて高い値 した(図1).地区毎の数はA地区10箇所(0.4箇 (89(cid:1)100%)を示した. 所/ha),B地区10箇所(0.4箇所/ha),C地区7箇 哺乳類ではアズマモグラMogera imaizumiiとク 所(0.2箇所/ha),D地区3箇所(0.1箇所/ha)で マネズミ属Rattusが出現した.年間を通じて出現 あった.また,各地区とも土塁のような小高い場 率は0(cid:1)17%と低く,5月と6月にアズマモグラが 所に多い傾向がみられた. 各2例出現したほかは,2月にアズマモグラが1例, 2006年7月に開始した溜め糞場の利用状況の調 12月にアズマモグラ1例とクマネズミ属1例が出 査では,新しい糞の数がA地区に多く,D地区で 現したのみであった. は少ないことが分かった.1日の調査で見いださ 鳥類の年間を通じた出現率は11(cid:1)80%であり, れた新しい糞の数は日によって大きく変動してお 1月,2月および4月に高くなった(67(cid:1)80%).年 り,その最大数を月単位で見た場合,2007年4月 間を通じて最も多く検出された種はカラス属 の4個が最少で,最大は2006年9月の29個であっ Corvusで,次いでハト類であった.また出現率が た.また,月別の最大数は9月から12月にかけて 高くなる1月から4月にかけては,これら以外に 大きく,1月から6月にかけて小さくなる傾向がみ サギ類,メジロZosterops japonicusなど複数の種類 られた(図2). が確認された. 2. 糞内容物の組成 爬虫類の出現率はきわめて低く,7月にトカゲ 全調査期間中,169個の新しい糞を採取した. 類とヘビ類の計3例(17%)が出現したのみであっ 地区毎の内訳はA地区123個,B地区15個,C地 た. 区16個,D地区15個であった.このうち,164個 両生類の出現率も0(cid:1)25%と低く,大型のカエ (169個の糞のうちの97%)の糞から動物質が, ル類が6月に3例(25%),8月と10月に各1例出 161個(95%)から植物質が,また21個(12%) 現したのみであった. から人工物が検出された(表1).動物質として哺 昆虫類は9目26科62種が検出され(うち目, 乳類7例(4%),鳥類62例(37%),爬虫類3例 科,亜科もしくは属の一種と同定されたもの21例 (2%),両生類5例(3%),昆虫類160例(95%), を含む),年間を通じて高い出現率(81(cid:1)100%) 唇脚類94例(56%),等脚類4例(2%),腹足類 を示した.11月(83%)と12月(81%)にやや低 20例(12%)の8動物群のほか,同定不能のもの 下したものの,他の月は90(cid:1)100%と高い出現率 が9例見いだされた.植物質として,種子159例 であった.とくに多かったのは鞘翅目で,中でも 図2.1日に確認された新しい糞の月別の最大数の季節変動. 皇居のタヌキの食性 67 表1. タヌキの糞から検出された内容物の例数と出現率. a. 例数 月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 計 採取数 6 9 7 15 14 12 18 18 10 21 18 21 169 動物質 6 9 7 15 14 12 18 17 10 21 16 19 164 哺乳類 0 1 0 0 2 2 0 0 0 0 0 2 7 鳥 類 4 6 3 12 6 4 2 5 5 5 6 4 62 爬虫類 0 0 0 0 0 0 3 0 0 0 0 0 3 両生類 0 0 0 0 0 3 0 1 0 1 0 0 5 昆虫類 6 9 7 15 14 12 18 17 9 21 15 17 160 唇脚類 4 8 2 8 14 10 7 3 5 16 4 13 94 等脚類 0 1 0 0 0 1 2 0 0 0 0 0 4 腹足類 0 0 0 7 2 1 4 1 0 1 1 3 20 不明動物質 0 1 0 3 1 0 0 2 0 0 1 1 9 植物質 6 9 6 10 14 12 17 18 10 21 18 20 161 種 子 6 9 5 9 14 12 17 18 10 21 18 20 159 その他 1 3 1 6 2 6 6 6 1 2 2 2 38 人工物 1 2 4 5 1 1 1 1 1 2 0 2 21 b. 出現率(%) 月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 全期間 採取数(個) 6 9 7 15 14 12 18 18 10 21 18 21 169 動物質 100 100 100 100 100 100 100 94 100 100 89 90 97 哺乳類 0 11 0 0 14 17 0 0 0 0 0 10 4 鳥 類 67 67 43 80 43 33 11 28 50 24 33 19 37 爬虫類 0 0 0 0 0 0 17 0 0 0 0 0 2 両生類 0 0 0 0 0 25 0 6 0 5 0 0 3 昆虫類 100 100 100 100 100 100 100 94 90 100 83 81 95 唇脚類 67 89 29 53 100 83 39 17 50 76 22 62 56 等脚類 0 11 0 0 0 8 11 0 0 0 0 0 2 腹足類 0 0 0 47 14 8 22 6 0 5 6 14 12 不明動物質 0 11 0 20 7 0 0 11 0 0 6 5 5 植物質 100 100 86 67 100 100 94 100 100 100 100 95 95 種 子 100 100 71 60 100 100 94 100 100 100 100 95 94 その他 17 33 14 40 14 50 33 33 10 10 11 10 22 人工物 17 22 57 33 7 8 6 6 10 10 0 10 12 オサムシ科Carabidaeハネカクシ科Staphylinidaeお て多く検出された.コガネムシ科は5月から9月 よびコガネムシ科Scarabaeidaeの成虫が多く見い にかけてよく出現し,とくに7月(23例)と8月 だされた.オサムシ科は4月から7月にかけて多 (22例)に多かった. く出現した.なかでも4月にはアオオサムシ 唇脚類は毎月出現し(17(cid:1)100%),年間の捕食 Carabus insulicolaの15例とそれ以外のオサムシ科 対象であることが示された.月毎の出現率に高低 が2例認められ,同科の出現率の最高値を示した. の差が大きいものの,2月は89%,5月は100%,6 ハネカクシ科は11月から4月(7(cid:1)16例)にかけ 月は83%と高い値を示した. 68 酒向貴子・川田伸一郎・手塚牧人・上杉哲郎・明仁 表2. 皇居におけるタヌキの糞から得られた未消化物のリストと月別出現数. 月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 計 哺乳類 1 2 2 2 7 アズマモグラ 1 2 2 1 6 クマネズミ属の一種 1 1 鳥類 4 6 3 12 6 4 2 5 5 5 6 4 62 サギ類 1 1 ハト類 2 1 1 2 3 1 1 11 メジロ? 1 1 カラス属の一種 2 1 6 1 1 1 3 3 1 1 2 22 小型種 1 1 不明 2 3 3 2 5 1 2 1 4 1 24 卵殻 1 1 2 爬虫類 3 3 トカゲ亜目(トカゲ類?)の一種 1 1 ヘビ亜目(ヘビ類?)の一種 2 2 両生類 無尾目(カエル類)の一種 3 1 1 5 昆虫類 6 9 7 15 14 12 18 17 9 21 15 17 160 サナエトンボ科の一種 1 1 モリチャバネゴキブリ 1 1 カマキリ科の一種 1 1 コオオロギ科の一種 1 1 2 3 7 ツユムシ亜科の一種 2 3 5 ウマオイ 1 1 2 マダラカマドウマ 3 3 バッタ科の一種 3 1 4 ハマベハサムシ 1 1 アブラゼミ(成虫) 9 6 1 16 アブラゼミ(幼虫) 1 3 4 ミンミンゼミ 1 4 5 セミ科の一種 2 2 チャバネアオカメムシ 2 2 ヨコヅナツチカメムシ 1 1 ツチカメムシ科の一種 1 1 マメゲンゴロウ 1 1 アオオサムシ 1 3 15 8 2 13 7 3 11 3 2 68 オオゴミムシ 4 3 7 ムラサキオオゴミムシ 1 2 1 2 6 スジアオゴミムシ 2 2 ナガゴミムシ亜科の一種 1 2 1 1 2 4 1 12 ケシガムシ属の一種 1 1 ガムシ科の一種 1 1 1 1 1 1 6 オオヒラタシデムシ 1 2 3 13 7 9 3 4 4 1 47 チビカクコガシラハネカクシ 1 1 クロガネハネカクシ 6 1 7 オオアカバハネカクシ 2 7 3 3 3 2 9 29 ダイミョウハネカクシ 1 1 ヒラタホソコガシラハネカクシ 1 1 ユミセミゾハネカクシの一種 2 1 3 ハネカクシ科の一種 5 7 4 5 5 1 5 10 7 49 コクワガタ 1 1 2 4 センチコガネ 2 4 2 1 9 コブマルエンマコガネ 6 4 7 4 2 3 26 コフキコガネ 1 1 クロコガネ 1 1 アオドウコガネ 6 12 3 3 24 コイチャコガネ 1 1 2 スジコガネ 1 1 スジコガネ亜科の一種 3 4 2 2 11 カナブン 1 1 コカブトムシ 2 2 カブトムシ 3 1 4 セマダラマグソコガネ 1 1 2 コガネムシ科の一種(成虫) 1 1 5 6 6 3 22 コガネムシ科の一種(幼虫) 2 2 ナガタマムシ属の一種 1 1 サビキコリ 1 1 1 2 5 シモフリコメツキ 1 1 皇居のタヌキの食性 69 表2.(続き). 月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 計 昆虫類 アカマダラケシキスイ 1 1 3 2 1 2 10 ケシキスイ科の一種 1 1 ウスバカミキリ 12 12 ノコギリカミキリ 1 1 2 ゾウムシ科の一種 1 1 2 アナアキゾウムシ亜科の一種 1 1 アズマオオズアリ 1 1 1 1 4 アミメアリ 1 1 2 トビイロシワアリ 1 1 クロヤマアリ 1 1 トビイロケアリ 1 8 1 10 チョウ目の一種(繭) 1 1 ヤガ科の一種(幼虫) 1 1 2 1 3 1 9 唇脚類 ムカデ類 4 8 2 8 14 10 7 3 5 16 4 13 94 等脚類 オカダンゴムシ 1 1 2 4 腹足類 7 2 1 4 1 1 1 3 20 マルタニシ 2 2 マイマイの一種 6 2 1 4 1 1 1 3 19 不明動物質 1 3 1 2 1 1 9 不明(骨) 1 2 1 1 5 不明キチン質(カニ脚片?) 1 1 2 グルーミング?(長毛) 2 2 種 子 6 9 5 9 14 12 17 18 10 21 18 20 159 イチョウ 5 1 1 4 11 イチョウ(種子片) 3 3 1 7 ヒマラヤスギ? 1 1 オニグルミ(種子片) 1 1 カバノキ科の一種 1 1 シイ・カシ類(種子片) 3 1 4 1 1 4 14 ムクノキ 1 2 3 9 21 17 20 73 ムクノキ(種子片) 2 1 3 エノキ 1 2 3 2 9 10 27 コウゾ 1 1 クワクサ? 1 1 イチジク 2 2 イヌビワ 10 1 11 クワ属 3 1 4 コブシ(種子片) 1 1 クスノキ 1 1 タブノキ 1 15 4 20 シロダモ(種子片) 2 2 ビワ(果皮を含む) 2 2 サクラ属(サクラ亜属) 10 11 21 クサイチゴ 14 14 スズメノエンドウ? 1 1 カエデ類 1 1 ムクロジ 1 1 クロガネモチ? 1 1 ケンポナシ 1 4 2 7 ミズキ 1 4 7 3 1 16 ヤマボウシ 1 4 2 7 カクレミノ 1 1 2 セリ科の一種 1 1 カキノキ 3 3 1 4 11 マメガキ 2 2 イヌホオズキ 1 1 ナス科の一種 1 1 石果類 1 1 イネ科の一種 1 1 カヤツリグサ科の一種 1 1 不明種1(果皮?) 1 1 不明種2 1 1 不明種3 1 1 2 70 酒向貴子・川田伸一郎・手塚牧人・上杉哲郎・明仁 表2.(続き). 月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 計 その他 1 3 1 6 2 6 6 6 1 2 2 2 38 ササ類(葉) 3 5 2 5 5 4 1 2 1 2 30 単子葉(葉) 1 1 広葉樹(葉) 1 1 1 3 木片 1 1 1 1 4 不明種(冬芽?) 1 1 人工物 ビニール片 3 1 1 5 綿 3 3 風船(ゴム) 1 1 シート?(ゴム製) 1 1 ティッシュ,ゴム製,レジ袋等 1 2 4 1 1 1 1 11 腹足類は1月から3月と9月を除いた各月に出現 57%).人間や家畜の食料に由来すると思われるも し(5(cid:1)47%),4月にはマイマイ類6例とマルタニ のは検出されなかった. シCipangopaludina chinensis2例の検出により出現 3. 定点調査の結果 率の最高値を示した. 定点調査地点A1では,52回の調査で計41個の 2) 植物質の出現状況 糞が採取された.このうち,3月から5月にかけて 植物質は169個の糞のうち161個から出現し,4 採取した5個の糞には種子が含まれていなかった. 月に出現率が67%と低下したものの,その他の月 残りの糞からは10種類の種子が確認され,その種 は高い値(86(cid:1)100%)を示した. 類と出現状況の季節変動は全調査地区での結果と 種子以外の植物質で頻繁に検出されたのはササ ほぼ同様であった.とくに,出現率の高いタブノ 類の葉であり,1月と3月を除き毎月みられた.サ キとムクノキの種子(付表1)は,全調査地区で サ類以外の植物の葉や木片はまれに出現する程度 の結果とほぼ同じ時期に,1個の糞から多数が長 であった. 期にわたって出現した.イチョウの種子は,1月 種子は38種(不明種3例を含む)が確認され 中旬から2月中旬にかけて毎週11個以上検出され た.3月(71%)と4月(60%)に出現率の低下が た. みられたものの,他の月では94(cid:1)100%と高い値を 示した.調査期間を通じて10例以上検出されたの 考 察 は,イチョウ(18例),シイ・カシ類Castanopsis spp., Quercus spp.(14例),ムクノキ(76例),エ 1. タヌキの生息密度 ノキ(27例),イヌビワFicus erecta(11例),タブ 皇居では1990年代半ばからタヌキの目撃情報が ノキ(20例),サクラ属(サクラ亜属)Prunus 増え(皇宮警察職員,私信),2000年に初めて溜 (Carasus) spp.,(21例),クサイチゴRubus hirsutus め糞が確認された(宮内庁庭園課職員,私信). (14例),ミズキCornus controversa(16例)および 本調査では,30箇所の溜め糞場を見つけ(図1), カキノキDiospyros kaki(11例)の10種類であっ それらの多くが継続的に使用されていることを認 た.これらの中には,イチョウ(10月(cid:1)4月)や めた.長崎県高島の調査では,1頭のタヌキが1日 ムクノキ(8月(cid:1)4月)のように長期にわたって検 平均1.9個の糞をすると推測されている(Ikeda et 出されたものと,サクラ属(5月と6月)やイヌビ al., 1979).皇居で1日に確認した新しい糞の数を ワ(8月と9月)のように特定の時期に集中して抽 1.9で割って求めた推定個体数は,最小で2頭,最 出されたものとがあった. 大で14.5頭となる.しかし,30箇所すべての溜め 3) 人工物の出現状況 糞場を1日で調査してはいないことと,まだ発見 人工物として抽出されたものはビニール片(5 されていない溜め糞場もあると思われることから, 例),綿(3例),風船(1例),ゴム製シート(1 これより多くの個体が生息していることも考えら 例),その他(ティッシュ,ゴム製品,レジ袋な れる.タヌキは通常5月頃に出産し,8月頃まで子 ど11例)であった.これらの出現率は0(cid:1)57%で, 育てを行い,9月(cid:1)11月に子が分散する(Ikeda, 他の月に比べ2月から4月に高くなった(22(cid:1) 1986)といわれている.新しい糞の数が9月から 皇居のタヌキの食性 71 11月にかけて多くなったのは,皇居内での出産に の死骸や羽毛が散乱している.タヌキの糞から得 より一時的に個体数が増えたためかも知れない. られた鳥類の体の一部は,このような死骸に由来 溜め糞場の数や新しい糞の数が他の地区よりA すると思われる. 地区(吹上御苑地区)に多かったことは,この地 哺乳類と爬虫類の年間の出現率は4%以下で 区を中心に行動しているタヌキがほかの地区より あった(表1).関東地方の低山帯や丘陵地 多いことを示している.タヌキは活動や休息を集 (Sasaki and Kawabata, 1994;糟谷,2001;Hira- 中的に行う場所を数ヶ所持っており(Ikeda, 1985), sawa et al., 2006)では,冬期に哺乳類の出現率が 樹林地がその繁殖や休息,採食の基盤となる重要 高くなることが示されたが,皇居でこの値が低い な環境である(山本・木下,1994;金城ほか, のは哺乳類や爬虫類の種数も生息数もともに少な 2000)ので,皇居でも樹林の多い吹上御苑がタヌ いためだと思われる.皇居では,野生の小型哺乳 キにとって最も重要な地域になっているのであろ 類としてはアズマモグラとアブラコウモリPip- う. istrellus abramusが生息する(武田ほか,2000)の 2. 皇居のタヌキの食性 みである.地中性および飛翔性の哺乳類はタヌキ 都市部から離れた場所でのタヌキの食性につい にとって恒常的な餌資源とはなりにくい.今回ア ては,長崎県高島(Ikeda et al., 1979)および神奈 ズマモグラが糞から検出された時期は,若齢個体 川県丹沢札掛(Sasaki and Kawabata, 1994)での糞 の分散期(横畑,1998による)に相当する.本種 による分析があり,昆虫類と果実類を中心にムカ はこのような時期にのみ偶発的に得られる餌なの デ類,甲殻類,魚類,両生類,爬虫類,鳥類,哺 であろう. 乳類などを採食することが分かっている.本調査 昆虫類は年間を通じて出現率が高く,その活動 でもこれらの地域と同様に,果実類と昆虫類を中 が低下する12月から3月においても高い出現率を 心とした食物構成がみられ,唇脚類や鳥類,腹足 示した(表1).都市部から離れた長崎県高島 類,哺乳類,両生類,爬虫類なども採食している (Ikeda et al., 1979)と神奈川県丹沢札掛(Sasaki ことが明らかとなった(表1). and Kawabata, 1994)での調査によると,昆虫類の 一方,都市部における調査では,神奈川県川崎 出現率は年間を通じて高く,神奈川県川崎市(山 市での胃内容物による食性分析から,人為的食物 本・木下,1994)や埼玉県伊奈町(糟谷,2001) の残渣の出現率が約72%であり(山本・木下, といった都市部あるいはその近郊における調査で 1994),埼玉県伊奈町での糞内容物による食性分 は,昆虫類の出現率は50%程度であった.今回の 析から,残飯の出現率が約85%であった(糟谷, 調査での昆虫類の出現率の高さは,都市部から離 2001)と報告されている.本調査では残飯と思わ れた調査地での結果によく似ている.上に述べた れるものは出現せず,人工物の出現率も12%と低 丹沢札掛の調査では,12月から5月にかけて異翅 かった(表1).皇居は周囲を建築物に囲まれたわ 目の出現率が,また8月から9月にかけて直翅目 ずか100ha余りの緑地であり,人畜の食料に由来 の出現率が高くなるのに比べ,本調査では年間を する残飯はほとんど存在しないが,複数のタヌキ 通じて異翅目と直翅目の出現率は低く,代わりに が生息を維持できる自然の食物が十分供給されて 鞘翅目が多く見いだされた.皇居では,地表性の いると考えられる. オサムシ類が広範囲に生息しており,動作も緩慢 3. 食性の季節変動 であるため,タヌキにとってよい捕食対象となっ 本調査の結果から,皇居におけるタヌキの食性 ている.とくに,この昆虫の活動最盛期に当たる の季節変動には次のような特徴がみられた. 4月から7月にかけてその出現率が高かった.直翅 鳥類の出現率は1月から4月にかけて高くなっ 目の出現率が低いのは,その多くが好む開けた草 た(表1).東京都日野(Hirasawa et al., 2006)や, 地が皇居には少ないためだと思われる. 神奈川県丹沢札掛(Sasaki and Kawabata, 1994), タヌキの糞からの果実類の出現率は一般に春か 埼玉県伊奈町(糟谷,2001)など関東地方の低山 ら秋にかけて増加する傾向があり,果実の結実期 帯や丘陵地でも同様の結果が得られ,冬期に減少 と関係がある(Sasaki and Kawabata, 1994; Hirasawa する植物質の食物を,鳥類などによって補ってい et al., 2006)といわれている.今回の調査で1回の ると考えられている.皇居にはオオタカAccipiter み出現した種類を除いた果実類の結実期と月毎の gentilisなどの猛禽類が生息し,時折カラスやハト 出現率を図3に示した.これらの果実は,タヌキ 72 酒向貴子・川田伸一郎・手塚牧人・上杉哲郎・明仁 け 掛 網 , し 示 を 数 実 の 実 果 た し 現 出 は 値 数 の ) 1 A ( 査 調 点 定 , を 率 現 出 は 値 数 の 査 調 域 全. .す 係示 関を の色 期の 実実 結果 とは 率内 現) 出 ( び. よす お示 期を 時と 現こ 出る のあ 類で 実0 1 果(cid:3) は . 3 図