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390 植物研究雑誌 第88巻 第6号 2013年12月 新 刊 Book reviews めに,間紙(cid:11)あいがみ(cid:12)という白紙が毎頁ごとに 入っている本もあるそうだ.本の厚さが倍増して □ローター・ミューラー(著)三谷武司(訳): いることになるが,これも紙の供給が豊富だから メディアとしての紙の文化誌A5.400 pp. こそと言える.そう言えば本書でも,頁下端の余 ¥4,500+税.東洋書林.ISBN 978-4-88701-813- 白が広くとってあるのは,書き込みの便宜のため 0 C0020. なのだろう.(cid:3)「本は神聖なもので,汚してはいけ  L. Müller: Weisse Magie: Die Epoche des(cid:3) ない」 と教えられた者にとっては,意外な利用法 Papiers (2012)の邦訳.かねてから,貝多羅葉紙 だった.古書目録では 「書き込みあり」 や 「よご はどんなものかと疑問を持っていたので,紙とい れあり」 は安い値段がついているが,ものによっ うものの発生から説いているのかと思ったらそう ては数百倍の値段になるものもあるようだ.印刷 ではなく,中国の植物繊維由来の紙やエジプトの 機の急速な発達がトランプカードの需要急増によ パピルス紙の話は省かれていて,アラビアから欧 って促された,という指摘は面白い. 州へ伝わったボロ布や古縄を原料とする紙の話か  最後の方になって,最近の文字情報の電子情報 ら始まる.この製紙法は,(cid:3)AD 105年頃に中国で 化や電子出版と従来の紙媒体による発表・保存と 開発された蔡侯紙の技法が,イスラム世界経由で の得失が論じられているが,本文383頁中,(cid:3)7頁 伝わったものなのだが,本書はそういう発達史が を占めるに過ぎない.本書執筆中には,ペーパー 目的ではないので,気にしなくてよかろう.水車 レスの電子図書はまだ話題に上るまでに発達して を動力源として,これらの素材を短い繊維にまで いなかったのでやむを得ないことなのだが,この 叩解し,獣骨を粉砕して得た膠質を混ぜてシート 件については全然もの足りない.次回の執筆では 状に拡げ乾燥する工程は,多量の水と燃料を消費 この部分が本書の主題になるだろう.訳者が指摘 した上,多量の汚物と汚水を発生する一大工業だ するように,情報の更なる蓄積・消化が期待され ったようだ.もっとも,今日の言葉で言えば,有 る. 力な 「資源再利用」 とも言える.この段階を元に,  巻末に280件ほどの索引が付いているが,人名 木材チップを原料とする製紙工業に発展するのだ や文学作品名と技術用語とは別建てにした方が使 から,話をここから始めるのももっともである. い易いような気がする. (cid:11)金井弘夫(cid:12)  こうしてできた 「紙」 という製品は,それまで 使われていた媒体に比べて,文字を介しての情報 □盛口 満:雑木林は不思議な世界B5.167 の表現の自由度を格段に拡げたばかりでなく,印 pp.(cid:3)¥950+ 税. 山 と 渓 谷 社.ISBN 4-635- 刷技術の発達で,多量の文字情報,図形情報を短 00812-6(cid:3)C0345. 時間で広範囲に頒布することを可能にした.一  見開き2頁ごとの読み切りで,雑木林に住む小 方では紙幣などの有価証券が,それ迄の貨幣に頼 さな昆虫や菌類が主題なのだがそれらが活躍の場 っていた経済活動に大変革をもたらした.他方, とする木々のことが巧みな線画で示されていて引 諸々の約束ごとや手続きを一々紙で記録すること きつけられる.そういう虫たちはわれわれが植物 になり,それ迄は口頭で済んでいた世の中の仕組 を観察・採集するときにも目に入っているはずだ みが大きく変わることになった.これらの事例が がどうも印象が薄い.でも夏になって,実をつけ 次々と示される一方,文学作品の表現法の進化の たコナラの枝先がたくさん落ちていても,カラス 話は大変念入りで,多くの著者の多数の作品につ がいたずらでもしたのかと見過ごしてしまう.し いて例示されている.いわゆる古書の中には,読 かし本書でその理由を知ると,拾って実のつけ根 者のメモや意見を記すために周囲の余白をわざと に産卵痕がないかと調べてみたり,実を割ってゾ 広くとったものがあって,ヨーロッパの古書店を ウムシの卵を発見したりする.山で栗を拾って置 念入りに見て歩くと歴史上の人物の書き込みや, いておくと,虫がゾロゾロ出てくる.あるいは葉 無名の碩学の意見表明を見つけたりすると,古典 の虫食い跡を,ハキリバチやハモグリバエと関連 学者の記事を見た覚えがある(久保正彰成蹊会誌 付けた標本として残すことも有用だと思うように No.102, 2005).印刷術以前の写本の時代から, なるだろう.モモのゼリー状の樹液が,水彩絵の 本の余白というものは伊達に存在しているわけで 具の定着剤に使われていた…という話を読んで, はないのだ.読者の感想や思いつきを記入するた アルプスで見つかった新石器時代のアイスマンの December 2013 The Journal of Japanese Botany Vol. 88 No. 6 391 記事に,その時代には矢尻の接着剤にBetulaの の導入は,とくに北海道,東北地方の飢饉対策と 樹液が使われていたという話を思い出した.マツ して有効だったとしている.最後に著者は,世界 の根元に落ちている 「エビフライ」 は,その形で の人工爆発の対策として期待される国際ポテトセ 作り主がわかるそうだ.植物観察に向けていた ンターの事業への日本人研究者の参加がないこと 目が,少し視野が拡がって,自然観察になってく に危惧の念を表している. (cid:11)金井弘夫(cid:12) る. (金井弘夫) □浅井元朗:身近な雑草の芽生えハンドブック □山本紀夫:ジャガイモのきた道.文明・飢餓・ 110×180 mm.120 pp.¥1,400+税.文一総合出版. 戦争 新書版.204 pp.¥740+税.岩波新書.(cid:3) ISBN 978-4-8299-8111-5 C0645. ISBN 978-4-00-431134-8 C0245  環境調査を業とする人たちの話しを聞くと,依  先に紹介した 「ジャガイモとインカ文明」 の著 頼元の予算執行時期の都合で,花や果実を確かめ 者が,南米原産の有毒成分を含むジャガイモが, てから同定するような悠長なことはしておれず, インカの人達の主食として選択されるに至った経 土を保温器に入れて,出てきた実生を同定せねば 過,そのヨーロッパへの導入による食料危機の回 ならないこともあるそうだ.広大な畠や牧草地で 避とその故に起った飢饉,さらにヒマラヤの食生 は,成長力の旺盛な有害雑草は,芽生えのうちに 活への浸透,日本への導入など,世界の食生活に 同定して早めに対策を講じる必要がある.従来芽 及ぼした影響を語る.ジャガイモは,コロンブス 生えの図は,桑原義晴氏や浅野貞夫氏の作品など のアメリカ発見(1493年)後,すぐに欧州にも が知られているが,本書は芽生え専門のハンドブ たらされたトウモロコシのようには,有用性が ックを目指したものである. 気付かれなかった.インカを征服した(1532年)  本書では約100種類が扱われている.それらに スペイン人は,ジャガイモがインカ人の食物だと ついては16頁以降に1頁2種類(cid:11)ものによって いうことは認識していたが,イモという作物は欧 は1種類(cid:12)ずつ,子葉,第1葉,第2葉,それ以 州人にはなじみがなく,穀物を主食とする彼らに 降の段階での姿が,いずれも拡大写真で示され, は低級感があって,欧州に導入されたのは40年 簡潔な説明がつけてある.拡大なので見易いのだ ほどたってからだという.日本でも,トウモロコ が,その実際の大きさは8–15頁の 「原寸大芽生 シ文化説が優勢な中で,著者がインカ人のジャガ え一覧」 にあるように,おそろしく小さい.頁の イモ文化説を唱えた際,「ジャガイモなんかで文 端に付けてあるmmの目盛りと比べればわかる. 化ができるものか」 と言われたそうだ. この部分が検索表を兼ねているのだが,その仕分  欧州に輸入されたジャガイモは風土に合ってい は,夏生(cid:62)葉脈分枝/子葉に切れ込み/葉脈不分 て,広く栽培され,それまでにはしばしばおこっ 枝(cid:64)(cid:3),冬生(cid:62)葉脈分枝/葉脈分枝不鮮明/葉脈不 ていた飢饉の被害を和らげるのに役立った.一 分枝(cid:64)と,ごく大ざっぱで,微妙な違いについて 方,収穫量の多い品種にばかり頼ったため,アイ は本文にまかせてある.本文の写真でも,成葉や ルランドでは病原菌の爆発的蔓延で,餓死者を出 花や果実はほんの添え物で,いろいろな発達段階 すほどの大飢饉になったという.原産地のインカ の葉の細部やロゼットが示されていて,(cid:3)「早期の 人たちがそういう目に合わないのは,狭い畑にジ 識別」 に重点を置いたことがわかる. ャガイモの30種類を超える品種ばかりか,別の  著者は永年の雑草防除の職掌柄,どんなステー 科(cid:11)Tropaeolacea(cid:12)のイモさえ混植し,しかも頻 ジでも,芽生えの葉一枚からでも識別できるこ 繁な休閑期を挟むため,病原菌やネマトーダの繁 とを目指してきたという.裏表紙の半分(cid:11)11×8.5 殖が抑えられているためだろうとしている.その cm(cid:12)に,春の畑の若いキャベツ4株(cid:11)現場ではた 代わり,収穫量は生活ギリギリの線だという.ヒ ぶん40–50 cm間隔(cid:12)の間の地面に生えた,雑草 マラヤ地域でも 「シェルパの伝統料理はジャガイ の芽生えを識別するクイズが出ているが,全127 モ」 と聞いていたが,そんな筈はないと,私は思 株のうち一番多いのはコアカザで,残り約60株 っていた.著者はシェルパの郷里のソロ・クーン が12種類に同定されている.こういう同定用の ブ地域で調査を行い,ジャガイモは確かにシェル 図鑑ができたからと言って,使いこなすには年季 パの日常食となっているが,その導入はせいぜい が必要だろう.別に紹介する大川式検索法に,利 50年くらい前のことだろうと推定する.日本へ 用の余地がありそうに思う. (cid:11)金井弘夫(cid:12)

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